生命・分析化学研究室とは

研究テーマの概要

 “はかる”無くして“化学(科学)”なし。この意味をよく考えてみてください。尿中のタンパク質の濃度をはかって健康診断をします。大気中の有害な窒素酸化物(NOx)の濃度をはかって安全を監視します。惑星探査機を飛ばし,大気成分がどんな化学物質かを突き止めます。はからないと何も分からない,つまり化学のみならず科学が進展しないのです。“はかる”を言い換えれば“分析する”です。では様々な場面で使われる分析法は,誰が作ってきたのでしょうか。分析化学(科学)者です。生命・環境分析化学研究室では,多様な分野で活用できる分析法の開発を行っています。

「分析化学」の魅力や意義

 分析の英語は,Analysisです。その語源は,ゆるめる,ばらばらにするというギリシャ語だそうです。日本語の分析の“分”は,まさしく分ける,“析”は木を斤で裂き割るという意味をもちます。103元素,原子番号104以上の超アクチノイド元素,さらには複数元素からなる化合物(化学物質)すべての個性を引き出し,化学物質が発するメッセージに耳を傾けるのが分析化学者の究極の仕事です。具体的には,化学物質を分析し,定量する(濃度を知る)方法を創り出すということです。それまで測ることができなかった化学物質の分析法を確立すれば,その方法論を駆使した新しい発見がもたらされます。2002年のノーベル化学賞(田中耕一氏)は,タンパク質の精密な分析法の確立に与えられ,この方法が生命科学の分野で広く使われています。分析化学は新しい科学を切り拓く可能性を秘めています。

指導方針

 学生は,とかく「単位取得のための勉強」「卒研のための実験」という意識に陥りがちですが,現実的にはそうであっても,まずはその学問・実験に興味をもってもらえるよう指導し,勉強は自らの将来の糧となり,実験は研究成果として社会に貢献するという意識を植え付けるようにしています。

特徴的な取り組み事例・研究トピックス

 特徴的事例:当研究室には,海外からの留学生がほぼ毎年1名以上在籍しています。これまでタイ,メキシコ,スペイン,ギリシャからの留学生を受け入れた実績があります。2014年には,タイから3名,メキシコから1名,ギリシャから1名と最大5名が同時に在籍することもありました。研究室メンバーが全員参加するグループミーティングでは,留学生が発表するときには,英語によるディスカッションも行っていますので,日本人学生にとってよい刺激となっていると思います。
 研究トピックス:中部TLOニュースに「低侵襲な病態診断のための呼気分析装置の開発」と題して,当研究室の研究が紹介されました(http://www.nisri.jp/ctlo/docs/news12.pdf)。また,当研究室で開発された尿中のビリルビンという生体代謝物質の分析法が,「肝臓の悲鳴を微量な尿成分でキャッチする」と題して,鹿児島大学で開催された分析化学討論会にて配布された「展望とトピックス」で紹介されました。これについては,http://www.jsac.or.jp//tenbou/TT72/p9.pdfをご覧ください。

教員の研究室での1日の流れ(一例)

9:00~9:30  Eメールチェック,消耗品発注など
9:30~11:00 グループミーティング<研究室メンバー全員参加>
        2~3名の学生が,実験報告または学術論文紹介を行う。
11:00~12:00 論文査読,論文執筆など
12:00~12:30 昼食・休憩
12:30~14:40 訪問学生への対応
        授業内容の質問への応答,卒論・修論・博士論文の実験に関する質問への応答など
14:40~16:10 バイオ環境化学(授業)
        4月から研究室に配属(卒業研究が開始)される3年生対象のゼミ
16:10~18:00 卒研・修論・D論の実験指導
18:00~19:00 学生実験のレポート成績付け
19:00      帰宅の途

学生の研究室での1日の流れ(一例)

9:30~11:00 グループミーティング<研究室メンバー全員参加>
        実験報告または学術論文紹介。
11:00~12:00 実験の準備(実験器具の洗い物・試薬調製など)
12:00~13:00 昼食・休憩
13:00~17:00 ひたすら実験
17:00~18:00 データのまとめ
18:00     帰宅の途

研究テーマの特色

 当研究室で扱っている試料は,環境水,水道水,尿,呼気,血清と多岐に亘ります。これらの新しい分析法が,環境分析,水道水質分析,臨床化学分析などの分野で将来貢献してくれることを願いながら,研究開発を続けています。当研究室では,これらの新規分析法の開発に,流れ分析という手法を用いることが多いです。従来,化学分析はメスフラスコやホールピペットを用いるバッチ式手分析法によって行われてきました。このような手分析法を,内径0.5 mm程度の細い管の中で自動的に行うのが,流れ分析です。これにより,試料や試薬の消費量が飛躍的に低減できます。廃液も少なくなり,環境にやさしい方法です。この方法は,2011年に日本工業規格(JIS)に初めて採用され,2014年3月には,環境省関係の公共用水域水質環境基準,地下水環境基準,土壌環境基準及び排水環境基準等のいわゆる公定法に採用されたことからもわかるように,現在注目されている自動化学分析の技術です。

研究室での学びを通して、学生にどんな力を身につけてほしいか

 卒業論文,修士論文,博士論文を仕上げるには,それまでの文献調査から始まり,ときには徹夜覚悟の実験の日々,教員や学生間での討論,図表・文章作成,学会発表,学内審査会など,超えるべき試練がたくさんあります。この一連の作業を通して,将来何かの試練が立ちはだかったときに,それを乗り越える知恵と実力を付けて欲しいと思います。

研究室で身につけた力を、社会でどのように活かしてほしいか

 上述の知恵と実力を発揮するには,まずは自ら考え,自らの解決策を探ることが必要です。しかし,それがベストかどうかは分かりません。その解決策を,上司や同僚に示し,意見交換をするなかで,真摯に他人の意見に耳を傾けることにより,よりよい解決策になるはずです。独りよがりにならず,問題を共有して,協調する術を身につければ,問題解決につながるはずです。

最後に

 大学の先生が言っていることは,すべてが正しいとは限りません。これは大学の先生の能力を疑っている訳ではありません。大学の先生は,常に最先端の研究分野と接しているからです。昨日まで正しいとされていた理論や定説が,ある一つの学術論文で簡単に覆ることがあります。大学1年生から3年生までは,いわば過去の学問の理論や定説を学び,それを身につける作業に終始しますが,それを乗り越えると,4年生からは,最先端の研究に触れることができ,将来の新しい理論を確立する実験結果を君たちの手が生み出すかも知れません。一緒に研究しませんか?