ハイトルクモーター

AIT鉄人2号では、近藤科学製KR-2346ICS(2350ICSと基本仕様は同じ)というサーボモータを使用してきた。このモータはロボット専用で、色々なオプションも販売されていて、初心者が使うには使いやすいサーボだ。しかし、AIT鉄人3号では更なる大型化を考えているので、よりハイトルクのモータが必要になる。重さ100g以下のハイトルクサーボモータは以下のようなものがある。

   KR-2346/2350ICS
近藤科学
RS601CR
FUTABA
DS8611
JR
X-Servo
HSR-5995TG
Hitec
Dynamixel DX-117
BestTechnology
DA20-06-350
VOLZ
トルク 20kg・cm 21kg・cm(9.6V) 19kg・cm(5.0V) 30.0kg・cm(7.4V)
24.0kg・cm(6.0V)
37.0kg・cm(16V)
28.0kg・cm(12V)
35kg・cm(6V)
(最大50kg・cm)
スピード 0.16秒/60° 0.17秒/60°(9.6V) 0.2秒/60°(5.0V) 0.12秒/60°(7.4V)
0.15秒/60°(6.0V)
0.126秒/60°(16V)
0.167秒/60°(12V)
0.11秒/60(6V)
軸受け プラスチック
(メタルOP有)
? メタル メタル メタル
ケース プラスチック プラスチック プラスチック プラスチック プラスチック メタル
重さ 58.0g 93g 68g 62g 66g 88g
サイズ 41×38×20mm 59×26×47.1mm 40×38×21mm 40×37×20mm 46.3×36.8×31mm 41.6×46×20.5mm
駆動電圧 6.0V 9.6V 3.2-8.0V 6.0-7.4V 11-18V 6-7.4V
12、20-30V(OP)
動作角度 180° 220° 120°
(180°可)
180° 300° 130°
260°(OP)
方式 PWM RS485 PWM PWM RS485 PWM
定価 14,000円 19,000円 16,000円 15,540円 28,000円 300ユーロ
(約40,000円)

動作角260度オプション
120ユーロ
(約16,000円)

 VOLZのサーボの高トルクは魅力的だが、完全に予算オーバー。Dynamixelもハイトルクで色々インテリジェントな機能があり、今一番欲しいサーボだが、予算的に無理。すると、1万円台のHitecかJRのサーボがトルクが大きくて良さそうだ。
 サーボモータは大きな負荷がかかるとふたの軸受けが変形してくるという問題が良くおきる。近藤科学の場合、オプションとして軸受けを金属にした上蓋を販売している。近藤科学のサーボを使う人はこれをつけたほうが良いだろう。HitecのHSR-5995TGは上蓋のすべての軸受けがメタルになっている。また、DS8611も軸受けは一番負荷のかかる中央がメタルで、かなり補強されているだけでなく、本体側もメタルの軸受けになっている。
 DS8611のトルクは一見低そうだが、トルクが電圧にほぼ比例すると考えると、7.4Vで28kg・cmに成る。また、通常トルクは測定条件により大きく異なり、3割ぐらいの誤差は当たり前の世界。特にJRの計測方法は、他社より小さめに値が出る傾向がある。

軸受け
HSR-5995TG
蓋の軸受けはすべてメタル
DS8611
こちらは蓋の中央の軸受けがメタルだけでなく、
本体側の中央の軸受けもメタル

ということで、DS8611とHSR-5995Gを次期使用機種として検討することにした。
 まずは、サーボのトルクのガチンコ勝負。2つのサーボをつないで、互いに逆方向へ無理やりまわしてみた。比較のためにKR-2346ICSも使用。念のため、サーボは2個ずつ用意して2回ずつの勝負。

2つのサーボをつないでガチンコ勝負

結果は以下のよう。
ガチンコ勝負
   KR-2346ICS HSR-5995TG DS8611
KR-2346ICS 0−2 0−2 0勝4敗
HSR-5995TG 2−0 0−2 2勝2敗
DS8611 2−0 2−0 4勝0敗

KR-2346ICSはトルクが小さいので、簡単に負けて回ってしまう。DS8611対HSR-5995TGの場合は、両者のトルクが強烈で、最終的には2回の勝負ともHSR-5995TGの軸受けの破損で勝負がついた。
HSR-5995TGは2回とも軸受け破損

 次に、同じ条件で各サーボモータのトルクを測定してみた。測定方法は、長さ16cmの棒をつけた先にはかりを置き、その値を読む方式。以下がその結果。
トルク測定装置
   
トルクの比較結果
   6.0V 7.4V
KR-2346ICS 17kg・cm 20kg・cm
HSR-5995TG 21kg・cm 27kg・cm
DS8611 23kg・cm 30kg・cm


 DS8611の方が、5995TGより1割ほどトルクが大きい。

ギア
   HSR-5995TG DS8611
モータギア 10 10
1段目ギア 10/60 11/60
2段目ギア 11/50 11/50
3段目ギア 13/34 11/34
最終段ギア 1/42 1/42
減速比 0.00334 0.00311

HSR-5995TGは1段目を除いてギアはすべてチタン。減速はDS8611の方が1割ほど大きい。この違いがトルクの違いに出ているのだろう。ただ、減速比が大きい分DS8611の方が1割ほどスピードは遅い。サーボモータの出力に大きく関係するモータは両者とも17mmのコアレスモータを使っている。ただし、DS8611の方が1ランク上のモータのようだ。さらにDS8611のモータはケースに密着しており、外壁との間に空気層は無い。そのため、放熱効果も高そうだ(JR PROPOではMiracle plastic heat sinkと説明している)。
 また、HSR-5995TGはケースのねじは4本だが、DS8611はねじ6本で止められているので、剛性的にも高そうだ。
 
DS8611のモータには外壁
との間に空気層は無い
DS8611は上からもねじ止め
トータル6本でねじ止めしている
 
5995TGの場合は、ボトムの蓋に軸受けがついている。これは便利だ。一方DS8611には付いていない。
 DS8611は回転のがたつきがある。また、HSR-5995TGはマイコンを使っているので特性を変えることができるが、DS8611はマイコンを使っていないので、特性の変更はできない。しかし、マイコンを使わない分位置決め精度はDS8611の方が高いと思われる。また、DS8611の制御基板はHSR-5995TGの半分の大きさであるため、ケースを加工して制御基板を外に出すにも好都合だ。DS8611の動作角度は120度だが、構造的には回路定数の変更で200度近くまでまわせる。
HSR-5995TGの制御基板 DS8611の制御基板

以上の結果より鉄人3号ではDS8611を使うこととした。

 
注:今回使用したDS8611はJR社から提供された米国モデルです。DS8611は日本ではDS8511の型番で販売されています。仕様は出荷時期等によって多少異なります。